神戸地方裁判所 平成4年(ワ)1265号 判決 1996年1月19日
原告
小林正幸
被告
杉原憲章
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告に対し、金二八七四万四二一四円及び内金二六一三万四二一四円に対する平成二年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、各自、原告に対し、五九五八万〇六四八円及び内五四五八万〇六八四円に対する平成二年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自転車に乗つて走行中、被告杉原憲章(以下「被告杉原」という。)運転のダンプカーに接触されて転倒し、傷害を負つて入通院し、後遺障害が残つたとして、被告杉原に対して民法七〇九条により、被告株式会社晶栄(以下「被告会社」という。)に対して自賠法三条によりそれぞれ損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和六二年一一月七日午後四時二〇分頃
(二) 場所 兵庫県三田市加茂二一七番地先国道一七六号線道路上(以下「本件道路」という。)
(三) 加害車 被告杉原運転の大型貨物自動車(以下「被告車」という。)
(四) 被害車 原告が乗つていた自転車(以下「原告車」という。)
(五) 態様 原告が原告車に乗つて西進中、後方より進行して来た被告車に接触されて転倒し、同車に轢過されて負傷した。
2 責任
(一) 被告杉原
被告杉原は、本件道路の幅員が狭く、本件事故当時、反対車線を進行して来る車両があつたため、原告車を追い抜くことを差し控えるべき注意義務があつたのに、同車を追い抜き、対向車を避けようとして左にハンドルを切り、被告車を原告車に接触させ、同車を転倒させたものであるから、民法七〇九条により原告が受けた損害を賠償する責任がある(甲三ないし六、原告及び被告杉原各本人)。
(二) 被告会社
被告会社は、被告車を所有し、本件事故当時、同車を運行の用に供していたから、自賠法三条により原告が受けた損害を賠償する責任がある。
3 原告の傷害及び後遺障害
(一) 原告は、本件事故により、右腓骨開放骨折、右下腿挫滅創等の傷害を受け、次のとおり入通院した。
(1) 昭和六二年一一月七日から同月一三日まで七日間大坪胃腸科医院に入院
(2) 同年一一月一三日から昭和六三年五月一四日まで及び同年六月二〇日から同年八月二七日まで合計二五三日間国立神戸病院に入院
(3) 昭和六二年一一月一二日及び昭和六三年六月九日から同月一一日まで並びに同年八月から平成二年一〇月一日まで同病院通院(実通院日数一八日)
(二) 原告は、平成二年一〇月一日、症状固定し、次の各後遺障害が併合されたうえ自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表七級(以下、単に「何級何号」とのみ略称する。)に該当する旨事前認定された。
(1) 右足関節の用廃により八級七号
(2) 右第一、第二趾の用廃により一一級一〇号
(3) 右下肢の醜状痕により一二級
(4) 左下肢の醜状痕により一四級五号
二 争点
1 過失相殺
2 原告の損害額
第三争点に対する判断
一 過失相殺について
1 証拠(甲三ないし六、検甲一ないし七、原告及び被告杉原各本人、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 本件道路は、片側一車線で、車道幅員は各三メートルであり、原告及び被告が進行していた西行車線は幅員〇・六メートルの路側帯があつた。同道路の最高速度は時速五〇キロメートルであつた。
また、原告車の幅は〇・四五メートルで、長さは一・七五メートルであり、被告車の幅は二・四九メートルで、長さは七・六八メートルであつた。
(二) 原告は、本件事故直前、親戚の家に行くため、原告車に乗り、本件道路を西進し、路側帯部分が坂状で、草が生えていたため、同道路左側の白線の上辺りを走つていた。
すると、後の方から、ゴオーという音がしたため、原告は、後を少し振り返り、大型ダンプカーである被告車に追い抜かされようとしているのがわかり、危険を感じ、ブレーキをかけたととろ、少し右側へふらつき転倒しそうになり、その直後、同車に接触され、道路左側に倒されて右足を同車に轢かれた。
(三) 被告杉原は、本件事故直前、砕石を積載した被告車を運転し、本件道路を時速約五〇キロメートルの速度で西進し、四一・三メートル前方を進行する原告車をはつきりと認め、対向車両が進行して来ていたが、原告車を追い抜こうとし、速度を少し落として時速約四〇キロメートルの速度で、中央線を少しはみ出した状態で進行し、その後しばらくは対向車両の動静に気をとられ、原告車の動静をあまり注意しなかつたところ、原告車に約四メートルまで近づき、同車が急ブレーキをかけ、右に少し倒れそうになつたのを見て、被告車の急ブレーキをかけるとともに、対向車両が接近していたため、右にハンドルを切れずに少しハンドルを左に切つたところ、被告車の車体の一部が原告と接触し、原告を原告車もろとも転倒させた。
2 右認定によれば、原告は、本件事故直前、被告車のゴオーという音を聞いて、危険を感じて急ブレーキをかけ、少し右側へふらつき、その直後、同車に接触されたものであるが、坂状で、草が生えていた路側帯を通行できないため、道路左側の白線の上辺りを走つていて、背後から被告車の音を聞き、急ブレーキをかけ、少しふらいたもので、これらはやむをえない行動というべきで、原告に別段、落ち度があるとまではいえない。
かえつて、右によれば、被告杉原は、本件道路の幅員が狭く、原告車が路側帯を通行できない状態であつたのであるから、同車を追い抜く場合、同車が少し右側にふらつくことを想定し、また、反対車線を進行して来る対向車両も存在していたのであるから、同車両が通過するまで原告車を追い抜くことを差し控えるべき注意義務があつたというべきところ、原告車を追い抜こうとして、原告を少しふらつかせるとともに、対向車両が接近していたために少し左にハンドルを切つて原告に被告車を接触させ、本件事故を発生させたものであるから、同事故は、被告杉原の一方的過失であるといわざるをえない。
原告が、本件事故当時、身長に比して相当高い自転車に長距離、乗つていた(甲四、原告本人)ことも、右認定を左右しない。
従つて、被告らの過失相殺の主張は採用できない。
二 原告の損害額について
1 治療費(請求及び認容額) 二二一万三〇九八円
証拠(甲二、三〇の2、原告本人)によれば、原告三木は、本件事故により大坪胃腸科及び国立神戸病院で治療を受け、二二一万三〇九八円の治療費を要したことが認められる。
2 付添看護費(請求及び認容額・五九万八五〇〇円)
証拠(甲二、証人小林、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、国立神戸病院はいわゆる完全看護病院であつたこと、原告は、本件事故による入院の全期間、両親の付添看護を受けたことが認められる。
前記のとおり、原告の本件事故による傷害は重傷で、重い後遺障害が残つたこと、いわゆる完全看護病院も、一般的に必ずしも付添看護が全く不要ではないことなどから、原告主張のとおり、原告の大坪胃腸科の入院全期間及び国立神戸病院の半分の入院期間は付添看護が必要であり、その一日当たりの親族の付添看護費は四五〇〇円が相当であるというべきであるから、同費用合計は五九万八〇〇〇円となる。
3 入院雑費(請求及び認容額・三一万〇八〇〇円)
原告の本件事故による入院合計期間は二五九日間であることは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一二〇〇円が相当であるから、原告主張の入院雑費は是認できる。
4 通院交通費(請求及び認容額・一六万五九三〇円)
証拠(甲一二ないし二八、証人小林、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すると、本件事故により、原告がタクシー等を利用して入退院や通院した他、原告の付添のため、原告の両親がタクシーや電車を利用したりして、その交通費として一六万五九三〇円程度要したことがうかがわれる。
右に原告の傷害の内容、程度等からすると、原告の通院交通費はもちろんのこととして原告の両親の右交通費も相当な損害と認めることができ、その入通院日数等をも考慮すると、原告主張の通院交通費は相当な損害として是認できる。
5 装具代(請求及び認容額・二四万六一七一円)
証拠(甲二八、三〇の1、2、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故による治療のため、装具代として二四万六一七一円を要したことが認められる。
6 留年に伴う学費増加分(請求及び認容額・五四万九二二〇円)
証拠(甲七、八、二八、三〇の1、2、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、昭和六一年四月、兵庫県立長田高校に入学し、本件事故当時、二年生であつたが、本件事故により長期間入通院治療をしたことから、一年間留年せざるをえなくなり、結局、平成元年五月一一日、退学したこと、その後、原告は、予備校に通い、同年一〇月に大学入学資格検定試験に合格したが、一年間留年したため、五四万九二二〇円程度余分に学費として支出したことが認められる。
右によれば、原告主張の右学費増加分は相当な損害として是認できる。
7 就業遅れによる損害(主張及び認容額・三一九万八二〇〇円)
証拠(原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、平成二年四月に大阪市立大学法学部に入学し、平成六年三月に卒業したこと、原告は、本件事故による後遺障害により長時間の歩行が困難なため、通常の就職をしないで、現在、資格試験の取得を目指して勉強していることが認められる。
右認定と前記認定によれば、原告は、本件事故にあわなければ、平成元年四月に大学に進学し、平成五年四月から就職し、相当の収入を得られたものと推測できるから、一年間就業が遅れたことによる損害を認めるのが相当である。
すると、原告主張の平成四年賃金センサス産業計・規模計・男子労働者・新大卒による年収三一九万八二〇〇円が相当な損害というべきである。
8 逸失利益(請求額・三五二三万〇二四〇円) 一〇九九万六八五〇円
前記認定によれば、原告は本件事故により併合七級という相当重い後遺障害が残つたが、原告は、大学卒業後も資格を目指して勉強し、数年収入は得られないが、いずれ資格を取得すると、後遺障害による支障が相当残るものの、原告の収入にはあまり影響がないと予測されることや後遺障害の内容、程度、年齢等を考慮すると、平成六年四月から六七歳までの四四年間、一五パーセント程度の労働能力を喪失したとみるのが相当である。
そこで、前記の原告の年収三一九万八二〇〇円を基に、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を求めると、次のとおり一〇九九万六八五〇円(円未満切捨)となる。
3,198,200×22.923×0.15=10,996,850
9 慰謝料(請求額・一三〇〇万円) 一一〇〇万円
原告の傷害及び後遺障害の内容・程度、入・通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、被告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は一一〇〇万円をもつて相当とする。
10 原告の前記損害額合計 二九二七万八七六九円
11 損害の填補
原告が、被告から、本件事故による損害の填補として治療費二二一万三〇九八円、入院雑費として三万〇七九六円、交通費として一〇万五二七〇円、装具代として二四万六一七一円、留年に伴う学費増加分五四万九二二〇円の合計三一四万四五五五円の各支払を受けたことは当事者間に争いないから、これを右損害金から控除すると、その後の金額は二六一三万四二一四円となる。
12 弁護士費用(請求額・五〇〇万円) 二六一万円
本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二六一万円が相当である。
三 まとめ
以上によると、原告の請求は、被告らに対し各自損害賠償金二八七四万四二一四円及び内金二六一三万四二一四円に対する本件事故後である平成二年一〇月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)